お気持ち表明

ただのお気持ち表明です。専ら自分語りと思考の整理を兼ねて

ボトルネックという小説について

 僕はこんなんでも一応本を読む事が好きである。読書を嗜んでいると公言するには読書数的に些か憚られるが、それでも一冊の本という紙媒体に紡がれる言葉と、描かれる物語には非常に魅力を感じるし、この目で触れる事が好きである。また、読書というものはあまりにも手軽な娯楽だと感じる。ただ本を開くだけでその中の世界へ飛び込めるのだから。電車での移動時間で本を読んでいるとあっという間に時間が過ぎて目的地へ着いてしまうので、スマホでずーっとTwitterに張り付いているよりよっぽど建設的で有意義な時間を過ごせると思う。まあ結局僕はスマホの魔力に負ける事が大半なのですが……

 前置きはさておき、今回はそんな僕がこれまでに読んできた小説の中で一番大切な、もはや人生にまで影響していると言ってもいい米澤穂信作の『ボトルネック』という小説について書こうと思う。ちなみに米澤穂信といえば、2012年に放送されたアニメ『氷菓』の原作の小説を書いた人でもある。そして、氷菓といえばなんといっても2012年度アニメNO.1ヒロインの千反田えるであろう。彼女が登場したあの2012年、「えるたそ~」の文字列がネット上を席巻した事は未だ僕の記憶に新しい。氷菓を視聴した多くのオタクの心が彼女に殺され、たった四文字の平仮名しか言葉を発せなくなってしまうという未曾有の大惨事が起こったのだ。挙句の果てには彼女の実在を信じて疑わず、「えるたそ~」と唱え続ければいつの日か自分の目の前に現れて自分を救ってくれると信じ続けて引きこもり生活に落ちた者もいるとかいないとか。まあそれは僕の中学生時代の事なのですが……とにかく彼女はまったくもって恐ろしい怪物でもある。まあそれはそれとして氷菓はめちゃくちゃ面白いアニメなのでおすすめです。というか原作はラノベじゃない普通の小説なので挿絵も何もない中であんな秀逸なキャラデザに仕上げたのが凄いと思う。もう7年前のアニメなのか……話があまりにも逸れすぎたので本題にそろそろ戻ります。ボトルネックについてのネタバレがあるので注意を。何も知らずに読んでみたい人はブラウザバックして今すぐに買って読んでみてください。めちゃくちゃ面白いので。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

亡くなった恋人を追悼するため東尋坊を訪れていたぼくは、何かに誘われるように断崖から墜落した……はずだった。ところが気がつくと見慣れた金沢の街にいる。不可解な思いで自宅へ戻ったぼくを迎えたのは、見知らぬ「姉」。もしやここでは、ぼくは「生まれなかった」人間なのか。世界のすべてと折り合えず、自分に対して臆病。そんな「若さ」の影を描き切る、青春ミステリの金字塔。

 

家庭環境は崩壊し、恋人とは死別し、兄を事故で失う。恋人を追悼する為に東尋坊に訪れた主人公は兄の葬式で体裁を気にする母親から呼び戻されるが、ふとした拍子に崖から落ちてしまう。しかし、気付いたら地元である金沢の街にいた。ひとまず自宅へ戻ろうとするが、そこにいたのは見知らぬ女。その女と問答をするうちに、彼女の正体は生まれてこなかった自分の姉だと悟る。自分が生まれてこなかった可能世界に迷い込んでしまった主人公に対し、姉は「間違い探しをしよう」と提案する。そうして自分の世界と姉の世界との間違い探しをしていくうちに……というのが大体のあらすじである。

 はっきり言って、この物語には一切の救いがない。間違い探しをしていくうちに、姉の世界では全てが上手く回っている事が分かってくる。明るく主人公と正反対の性格をした姉は、決定的な岐路となる場面で些細な事ではあるが、行動を起こしたのだ。そして、「そうなってしまったものは仕方がない」と起こった事を諦めて全て受け入れて、「何もしない」事を選んだ主人公に、ただ「何もかもの選択を誤った」という現実がのしかかっていく。一体どこで間違えてしまったのか。考えた末、主人公はある結論に至る。「自分が生まれてきてしまった事自体がそもそもの間違いである」と。そして、恋人の死の真相が明かされ、主人公が恋人に抱いていた想いすらも……さすがにそこまでは書けないけど、本当にうわぁってなる真相です。

 

 僕はこの小説を読んで、酷く自分と重なる所があった。主人公に酷く共感し、感情移入してしまっていた。僕も基本的に何かあっても余程の事でない限り「仕方ない」と諦観を以て受け入れてしまうところがある。もちろんそれが精神を守る為の自衛手段である事は言うまでもない。彼と同じように捻くれてもいる。何よりも、「生まれてくるはずの姉がいた」という点において全く同じだったのが最大の要因だった。

 母から聞いた話によると僕が生まれる1年前に、生まれてくる事ができなかった姉がいたらしい。1つ違いの姉。今の僕には全くもって想像もつかない事である。もしも姉がちゃんと生まれていて元気だったら今頃どうなっていたのだろうか。ただでさえ親とコミュニケーションを取るのを疎ましがる僕に身内が増えたらもっと面倒になっていたかもしれない。もしくは、姉に感化されて僕という人間の性格が丸ごと変わっていただろうか。もしかすればこんな暗い性格が反転してめちゃくちゃ明るい人になっていたかもしれない。それら全ては今となっては考えても仕方のない事だが、知ってしまったら考えずにはいられない。何よりも、この小説を読んでしまったからには「もしも自分でなく、姉が生まれていたら」という思考をしない方が無理な相談ではないだろうか。この小説の主人公程酷い境遇ではないが、僕がやはりどうしようもない人間である事実は歴然としてあり、人生が上手く回っているとはお世辞にも言えない。そうでなければ今頃こんな生きづらくなっていないはずである。もし仮に姉が僕の代わりに生まれていたならば、今よりは色々な事がマシになっているような気がする。特に根拠はないが、僕は人生における選択肢を悉く外しているような気がしてならない。ギャルゲーならバッドエンドに直行していそう。僕以外の人間ならば少なくとも僕よりは上手に生きられているはずだ。根拠はないが、ただなんとなくそんな気がするのだ。

 仮に並行世界に行けるようになったら僕は真っ先に姉が生まれてきた世界を見に行くだろう。そこでもしも何もかもが上手く行っていたら、僕もこの主人公と同じように失敗作だったと、自分自身がボトルネックだったと心の底から実感するのだろうか。いや本当にこんな事考えたところで何も解決しないんですけどね。でもこの小説にはこんな事を考えさせるくらい僕に対して破壊力があった。読了時は酷く心が沈んだが、これほどまでに僕の精神をぶん殴ってくる本は初めてだった。

 

 サキは精一杯生きていた。

 ぼくも、ぼくなりに生きていた。別にいい加減に生きてるつもりはなかった。しかし、何もかもを受け入れるよう努めたことが、何もしなかったことが、こうも何もかもを取り返しがつかなくするなんて。

 

 生まれてくる種族を間違えたんじゃないか、なんでよりによって人間に生まれてきてしまったのかとは常々思うけど、本当に自分が生まれてこなければ良かった事を目の前でまざまざと見せつけられたら多分もう本当に生きていられなくなるくらいに精神を殺されるので嫌だなぁと思う。生きる意欲は特にないけど家族などの失うものがあるので生きる理由はある。その間は多分這いつくばってでも生きないといけないみたいだから、せめてその中でささやかな楽しみや好きな事で心をちょっとずつ救われていたいと思う。そして、読書をその中の一つにしたい。今年はたくさん本を読まなければなと思う。今は意欲が高いので頑張れる気がする。

 とにかくボトルネックは暗い話、後味の悪い話が好きな人にはうってつけです。文体はそれなりに軽いのでかなり読みやすい方だと思います。僕が自信を持ってオススメできるものなので是非買って読んでみてください。最後に全く関係のない曲を紹介して終わりにします。

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